文学者たちの痕跡

忘却されつつある文学者の闘争について書きとどめておきたいと思います。

柏葉英二郎の葛藤

30年前に京都でふらりと映画館に立ち寄った。

 観たのは恋愛と野球を描いた青春アニメであだち充原作の「タッチ3」だ。西尾監督の入院でその代理として彼が推薦したのは柏葉英一郎なのだが何らかの手違いでグランドにやってきたのはその弟柏葉英二郎。ある事件がきっかけで学生時代はどうしょうもない不良に転落し、就任してきたときも野球に対して特に明青野球部には憎悪をもって部員をしごきまくる。

 だが、この映画で私が何か物足らないものを感じたのはこの監督が本当は野球が好きで厳しい指導は「愛のムチ」というわけでなんとか憎しみを抑えきれていたところだ。外から見れば夜叉であっても内面は意外にもスッキリしている。

 

 それに対しコミックは私が高校生だった頃から読んでいたので共感できるところも多い。弟の英二郎は兄の英一郎に対し野球技術においても人格面においても劣等感を抱いていた。野球への情熱も潜在能力においても兄に勝るとも劣らないにかかわらず。映画とは違い彼は自分の感情を克服しきれていないまま大会に臨んだ。

 

 このドラマは部員たちの須見工という優勝候補との闘い、主人公の上杉達也が交通事故で逝ってしまった双子の弟和也の代わりに奮闘する場面があるが、何よりも魅かれてしまったのは柏葉英二郎自身の葛藤だ。選手への愛情ではなく、内側にある相反する心情を超克したことにある。テレビアニメでもいいので是非皆さんも見てほしい。地区予選決勝戦後、監督は目が見えなくなり病院へ運ばれた。主人公の達也とヒロインの浅倉南も見舞いのシーンは必見です。目は包袋が巻かれていて二人に対して相変わらず不愛想にふるまうが憎悪に打ち勝った顔に鬼の表情はない。青春のノスタルジーにしたりたい人だけでなくアンビバレントな心情、価値に苛まれている人々にも涙を誘いますよ。